特許権の消滅事由としての独占禁止法

弁理士試験の学習では「特許権の消滅事由」を以下のように覚えます。

  • 存続期間の満了
  • 特許料(年金)の不納
  • 放棄
  • 特許異議の申立てに係る取消決定の確定
  • 特許無効審判に係る無効審決の確定
  • 相続人不存在
  • 独占禁止法 100 条による特許の取り消し

弁理士試験を受ける上では上記くらいの認識でも大丈夫なのですが、私自身「独占禁止法」をあまりに知らなさ過ぎたので調べてみました。これから弁理士試験を受けられる方の学習の一助となれば幸いです。

独占禁止法

独占禁止法、正式名称「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」は談合やカルテルを取り締まる法律としてよくニュースで耳にします。少数の者による市場の独占(寡占)を防止して自由競争を促すことを目指しています。

その独占禁止法100条には、次のように定められています。

(特許又は実施権の取消し及び政府との契約禁止の宣告)

第百条

 第八十九条又は第九十条の場合において、裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、次に掲げる宣告をすることができる。ただし、第一号の宣告をするのは、その特許権又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権が、犯人に属している場合に限る。
一 違反行為に供せられた特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権は取り消されるべき旨
二 判決確定後六月以上三年以下の期間、政府との間に契約をすることができない旨
(2) 前項第一号の宣告をした判決が確定したときは、裁判所は、判決の謄本を特許庁長官に送付しなければならない。
(3) 前項の規定による判決の謄本の送付があつたときは、特許庁長官は、その特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権を取り消さなければならない。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第百条

89条や90条というのは私的独占や、その蓋然性の高い不当な取引制限を行った場合の刑罰を規定する条文です。すなわち、市場を独占するために用いられた特許権について裁判所は取り消すことを決定できるというのが100条1項1号です。

特許法

(目的)

第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

(特許権の効力)

第六十八条 許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

特許法 第一条および第六十八条

特許法は発明者に対するインセンティブとして特許権を与えており、その権利によって一定の期間、技術を独占できることが約束されます。一方で、独占禁止法は特定の者による市場の独占を忌避します。このあたりが2法間の関係を考える上でのポイントになります。

再び独占禁止法

独占禁止法には前出の100条より前に適用除外の条文があります。

第二十一条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第百条

この条文をそのまま読むと、特許権に基づく他の事業者の排除は独占禁止法では規制されないように思われます。しかしながら、ここで論点となるのは「権利の行使と認められる行為」の解釈です。公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」には以下の記載があります。

実質的に権利の行使とは評価できない場合は、同じく独占禁止法の規定が適用される。すなわち、これら権利の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合は、上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用される。

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針 – https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.html

公正取引委員会は、知的財産基本法や特許法第1条の趣旨に照らして産業の発達という目的に反するような行為は、特許権などの権利の行使とは認めず、独占禁止法21条の適用除外の要件を満たさないという考え方をしています。そうすると、独占禁止法21条という明文の適用除外規定が設けられているものの、実際に特許権の行使が独占禁止法に抵触するか否かは個別具体的な実態に基づいて判断されるということのようです。